第6章 惑いの往く末 前編
( ?ルカス……?)
思わず彼のおもてをじっとみつめると、その口角が上がる。
「いえいえ。………それより主様、どうして御一人で森の中へ?」
一見穏やかなひかりをはらんだ瞳に、何処か咎めるような感情のいろが宿っている。
(きっと、ルカスは何となく察しているよね、)
とは言え、マリスのことを話す訳にもいかないし………。
そう思考に載せ、前もって準備していた答えを口にした。
「一人で………、歌いたかったからよ」
「歌……ですか?」
訊き返す声に、「うん」と唇をひらく。
「頭のなかを整理したい時、一人で歌うようにしているの。
そうすると、………母さんが傍にいてくれている気がして安心できるんだ」
そう言って微笑う瞳が懐かしさに煌めく。
記憶の箱のなかにある、数える程の優しい記憶だけを取り出せば、すっ………と眼前に影が落ちる。
「ラト?」
何処か淀んだセレスティンの瞳にみつめられ、冷たい指が目元をなぞる。
思い出を映していた眦を何処か労るようにそっと撫でられ、
戸惑った瞳でみつめ返せば、薄い唇が弧を描いた。
「貴女は、とても優しい眼をしますね」
セレスティンの瞳に、仄かな棘が宿っている。
どうしてそんな眼差しを注がれるのか分からないまま、再度唇をひらく。
「母さんは、………いつも私を気遣ってくれたから」
そう呟く瞳が穏やかなひかりを映す。
そのひかりをみつめていたラトが、仄かに眉を寄せた。
「………?」
不機嫌そうにそのおもてをしかめられ、ただ見上げていると。
「……マリスさんにも、そのように優しい瞳をなさるのですか」
出し抜けに問われた声に、戸惑いが胸の内を支配する。
「どうしてそんな事を聴くの?」
自分の発した 戸惑いと、彼の声音に含まれる棘に気づいて、
動揺の滲む声が酷く空虚に響く。
「私は、貴女の答えを待っています。答えていただけますか?」
したたかな瞳をみつめられ、答えを探しながら唇をひらいた。