第6章 惑いの往く末 前編
彼女達が屋敷へと帰る頃には、
時刻は午後九時頃———空を染め上げていた夕陽は藍へと完全に呑み込まれていた。
「皆、ただいま」
ベリアンにつれられて、ラト、ルカス、ラムリのいる主の寝室へと
足を踏み入れた私の元へ、ラムリが駆け寄ってくる。
「主様……!」
大きなグリーントルマリンの瞳に安堵のいろを映して、ぎゅっと抱き寄せられる。
「よかったぁ……!
ボク、主様が屋敷のどこにもいないって聞いて、死ぬほど心配したんですよ………!?」
その腕にどんどん力が込められて、息もつけぬ程に強く抱きしめられる。
「ご、ごめんなさい。
もう勝手に出ていかないから、」
息苦しさを感じながらも、その背に指をかける。
密着した身体から、急く生者の証が伝う。
それだけで、彼がどれ程自分を案じていたのを痛いほど悟り、心臓を包み込む軋みと温もり。
(私なんかのことを、本気で心配してくれたんだ)
温もりが滲んでいく胸の内の感覚を、本来ならば抑え込まなければいけないのに、
何故だかそうすることはできなかった。
すん、と頭上で聴こえる音に、背にかけていた指を解いて頭を撫でる。
すると、嬉しそうに煌めく瞳が優しく瞬いた。
「えへへ………主様、頭を撫でてくれるんですね」
そう言って妙に大人びた顔付きて微笑みかけられ、
我に返った私は「ご、ごめんなさい」と慌てて指を引っ込める。
「大好きです、主様!」
ガバッ、と勢いよく抱きつかれ、バランスを崩した私は彼もろとも床に倒れ込む。
「ラムリくん。主様が困っておいでだよ」
私に指を差し伸べて、立ち上がるために手を貸しながらルカスが口にする。
「いいよ、ルカス」と慌てて手を振ると、その琥珀色の瞳が冷たく光った気がした。