第6章 惑いの往く末 前編
「二人とも、主様が戸惑っているぞ」
見かねたバスティンが口にする。
漸く瞳を解いたベリアンを見止め、ほっとしたように微笑んだ。
(良かった……。いつもの彼に戻ったみたい)
そう思考に載せ、唇に笑みを描く。
その表情に彼らが惹き付けられていることに気づかずに、ただにこにこと笑みを浮かべていた刹那。
『ヴァリス様、………ヴァリス様』
「!」
ふいに思考の奥にこだましたのは愛猫の声。
思わず瞳を巡らせど、彼の影すらみえなくて。
(マリス……?)
心のなかで応じると、彼はさらに声を重ねた。
『真夜中になったら、再度この森へおいでください。
誰にも知られぬようおひとりで。
………あなたの知らない、彼らの真実をお教えします』
「………!?」
囁かれた内容に耳を疑う。と同時に、生者の証がドクンと不穏に打ち鳴りはじめた。
(どうして……?)
彼は私と一緒に、この世界へと誘われた筈。
それなのに、何故皆のことを知っているの……?
答える者のない問いが、その胸の内で染みのように広がっていく。
ドクドクと加速する不吉な予感。
そんな彼女を現へと引き戻したのはバスティンの指だった。
「主様」
その頬を包む温かな指。
心配そうにゆらめく瞳にみつめられ、ヴァリスは唇に笑みをのせた。