第6章 惑いの往く末 前編
「………?」
何処か現から切り離したものをみつめているような優しい瞳に戸惑った顔でみつめ返す。
(ハナマル……さんって言ってたよね。
この人も、私と『同じ』なのかな………。)
そう思考を巡らせていると、にっとその口角が上がる。
「なーに? もしかして俺に見惚れてた?」
悪戯に告げられた声に、「違いますっ」とそっぽをむく。
くすくすと微笑いながら指を伸ばされると、
二人の間へと割り込んできたのはベリアンの白磁の手袋に包まれた指だった。
「ハナマルさん、お戯れが過ぎますよ」
彼の指を阻みながら、仄かな棘を宿した瞳でハナマルを見据える。
その眼差しに彼の言動を咎めるような感情を見て取ったハナマルは、その唇を笑みに染めた。
「へぇ………。」
ニヤニヤと、少しだけ意地悪に笑う。
何処か彼の言動に興味を引かれてさまを滲ませれば、その頬に血の色がのぼった。
「ふ、ふたりとも……?」
頬を染めるベリアンと、笑みを零し続けるハナマルに気づいて、
ヴァリスは戸惑った瞳で二人を見比べる。
忙しなくさ迷う瞳に、ハナマルは胸のなかで独りごちた。
(どんな人なのかって、………ベリアンから聞いた時から思ってたけど————。)
聡明な思考と、みずからに向けられる感情に関することには、
何処までも疎く鈍い心が同居する少女。
だからこそ、その身は無垢で美しいままなのか。