第1章 はじまりの夜
咀嚼しながら、部屋のなかの景色に視線を沿わせる。
(まるで19世紀の西洋風の国に迷い込んだみたい)
ロイヤルレッドの壁紙に金の額縁に彩られた絵画が並び、
ベッドサイドテーブルに置かれた白磁の花瓶には瑞々しい薔薇が生けられている。
壁に設置された木造りのラックには金細工のオルゴールや色とりどりの硝子の小瓶、
猫の人形の入ったスノードームが並び、
部屋の奥に置かれた本棚には重厚な背表紙の本たちが納められていた。
(あとで本棚を見てみたいな……。)
などと他愛のないことを考えながら瞳を巡らせていると、
ベリアンと名乗ったその青年と視線がかち合う。
春の陽光を閉じ込めた、温かさの滲むロードナイトの双眸。
視線が結んだ時、そのいろの澄んだ瞳に囚われた。
異様なまでに透明だったのだ。その心の奥底まで、見通せそうなほどに。
(綺麗……。)
背に月光のローブを纏ったように煌めく肌は白く蒼褪めたように見えるのに、
その唇は薄紅色に染まっていて、彼の色素の薄い人形のような容貌に色を添えていた。
ヴァリスはしばし呼吸を忘れて、ベリアンの双眸を眺めてしまった。
それが不躾なことだと思い至る前に、
彼もまた、食い入るように自分をみつめていることに気づく。