第6章 惑いの往く末 前編
「……………。」
一人裏庭に残されたバスティンは、彼女を思考に載せる。
初めて彼女を目にしたのは、ルカスに抱えられて部屋へつれていかれる眠っている姿。
色を失ってより青みがかった雪白の肌に、珍しい色合いの髪。
色を欠いた唇。小さくたおやかな手足は、片手で手折れてしまいそうな程細かった。
その翌日になり目覚めた彼女の眼をみて、バスティンはある仮説に往き着いた。
……………否。もうほとんど確信している。
(きっとあなたは、俺と『同じ』なんだろう)
他者との絆を結ぶことを何よりも厭い、心に深く鍵をかけている。
————猫たちに囲まれているヴァリスは、心から微笑っているように見えた。
昨日食堂でみせた悲しげな微笑とはまるで違っていた。
「本当のあなたは、何処にあるんだ………、」
みずからが発した言葉が、酷く虚ろに、曇天へと吸い込まれていく。
空を仰げば、雲の切れ間から蒼い月灯りが零れ落ちていた。
そのひかりと同じ色の瞳をもつ彼女を、その身に閉じ込めた苦悩を心から慮る。
「………早く主様を探しに行かなければ」
独りごつと、夜の森へと駆け出していった。