第5章 病魔 後編 *【🫖】
「主様……。」
切なげな吐息を残し、再度唇を触れあわせる。
それはいつもの親愛のキスではなく、艶めかしいキスだった。
鼻の先がふれたまま、もう一度唇を求めようとするベリアンの様子に、ヴァリスは熱いため息をつく。
その人形のように優美で整った顔立ちに、肌のきめまで美しい様に見惚れていると、
触れ合った唇の狭間から彼の舌が侵入してきた。
「っん………!」
生温かくぬるついた舌が、まるで別の生き物のように絡みつき、
予測のつかない蠢き方をする。
唇の裏側を舐められ、歯をなぞられ、
怯えて引こうとする舌を優しくなだめるように吸い付いてくる。
けれどそれは、全く厭な感覚ではなかった。
唇を奪っているのはいつもの彼ではない。
控えめで品行方正な彼のイメージを半ばひっくり返すような貪欲さを滲ませて口付けられるその様は、
彼もまた男なのだと知らしめるようだった。
ヴァリスの舌を懐かせるように蠢いていた舌は、
彼女が身体の力を解きかけたタイミングを見計らって、やがて我を忘れたように口内を侵していく。
触れあわせた唇は限りなく優しく、慈愛が滲みでるようなのに、
彼女の口腔を貪るように蹂躙され、快楽に馴染みはじめていた身体からさらに力が抜け落ちる。
けれどヴァリスは、ベリアンの秘められた熱が唇を介して注がれてくることに悦びさえ感じていた。
最初は怯え逃げ惑っていた舌を、彼と熱を分かつようにそっと応える。
もっと彼にふれたい。もっと彼にふれられたい。
はしたない欲求が胸のなかに灯る頃、彼は舌と唇を同時に解いた。