第4章 病魔【P128 ~ 🫖*】
ヴァリス達一行がデビルズパレスへと帰る頃には、夕陽は薄闇に呑まれかけていた。
キィ……と扉をあけると。
「主様、お帰りなさ〜い!」
ぴょこ、ぴょこ、と跳ねるような足取りで出迎えたラムリに、ヴァリスは微笑いかける。
「ただいま、ラムリ」
コツ……と長靴の踵を踏みしめて、エントランスへとつま先を進めた。
『……ヴァリス様』
その瞬間、頭の奥でとらえたのは、行方知らずの愛猫の声。
『俺は、あなたを———。』
けれどその続きの言葉は、吹き荒れる木枯らしにかき消された。
(マリス……?)
心で呼びかけるも、彼からの返答はない。
その直後。
ドクンッ……とみずからの心臓が一層強く打ち鳴った。
(この……感覚って………っ!)
早鐘のようなリズムに変貌る生者の証。
その身を染め上げていく火照り。次第に霞がかる視界。
呼吸すら儘ならなくて、思わず胸元を握りしめた。
「主様?」
ラムリのグリーントルマリンの瞳が心配そうにゆらめく。
おもてをのぞき込むように見つめられ、必死に顔を背けた。
「大丈夫よ」
じわり、じわじわ。
ゆっくりと、けれど確実に、その身を支配していく熱。
それに抗いながら微笑って見せた。
「少し疲れてしまったみたい」
咽喉につまりそうになる言葉を、一語一句ずつゆっくりと口にする。
次第に熱に侵されていく吐息を、深く吸い込むことで抑えた。
「主様、ボクがお部屋までお送りしましょうか……?」
触れようとした指を拒み、唇に鎧のような笑みを貼り付ける。
「平気よ」
ふらつきそうになる足を叱咤して、階段を上る。
「先に部屋で休んでるね、しばらく一人でいたいの」
それだけを告げると廊下の先へと往く。
ふらついた足取りに、三組の瞳が心配そうに見送っていることを思考の裾に感じながら。