第5章 病魔 後編 *【🫖】
その手の温かさに、
何も聴かずともここに在りつづけている彼の優しさに、胸の奥が痺れた。
彼は、本当の私を受け入れてくれるのかもしれない。
諦めようとしていた仮説が心に沁みゆく。
(っ………私、)
みずからの思考にはっとする。そんな事は、許される筈がないのだ。
このままではいけない。
すべてを許されたような錯覚に陥る前に、彼の手を振り払わなければ……。
けれど頭では理解していても、その手を振り払えるほど、彼女は強くなかった。
「!」
抱きしめられるままにただ震えているヴァリスに、彼は唇を触れあわせた。
驚いて身動ごうとしたその仕草を許さず、一層唇を喰まれる。
ただ、きつくきつく抱きしめ、その唇の柔らかさを堪能して……。
「べり、………んぅっ」
名前を呼ぼうとした声は、彼の唇に呑まれる。
唇をひらいたことで、熱くぬるついたものが口内に差し込まれた。
彼の舌に翻弄されながら、儚い指が彼の魔導服をつかむ。
ぐっ……とそれを引くと、漸く唇が解放された。
どちらの唇ともつかない、蜘蛛が吐き出したような白銀の糸が引き、そして千切れる。
「これで、証明になり得たでしょうか?」
唇は解いても、その腕のなかから解放する気は毛頭ないらしい。
腕のなかに囲い込んだまま、その指が唇をなぞってくる。
「………?」
とまどった瞳で見上げれば、その瞳が柔らかくみつめた。
「私は、いかなる貴女でも否定いたしません」
「っ……ぅ、なん、で………。」
その声が動揺に震えるのを自覚した。
背を支えていた手が腰を引き寄せ、強くつよく包み込む。
突然声を発したことで、また息が詰まりかける。
優しい手付きで背をさすりながら、再度唇をひらいた。