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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


ヴァリス達一行がデビルズパレスへと帰る頃には、夕陽は薄闇に呑まれかけていた。

キィ……と扉をあけると。



「主様、お帰りなさ〜い!」

ぴょこ、ぴょこ、と跳ねるような足取りで出迎えたラムリに、ヴァリスは微笑いかける。



「ただいま、ラムリ」

コツ……と長靴の踵を踏みしめて、エントランスへとつま先を進めた。



『……ヴァリス様』

その瞬間、頭の奥でとらえたのは、行方知らずの愛猫の声。



『俺は、あなたを———。』

けれどその続きの言葉は、吹き荒れる木枯らしにかき消された。



(マリス……?)

心で呼びかけるも、彼からの返答はない。



その直後。



ドクンッ……とみずからの心臓が一層強く打ち鳴った。


(この……感覚って………っ!)

早鐘のようなリズムに変貌る生者の証。

その身を染め上げていく火照り。次第に霞がかる視界。



呼吸すら儘ならなくて、思わず胸元を握りしめた。



「主様?」

グリーントルマリンの瞳が心配そうにゆらめく。

おもてをのぞき込むようにみつめられ、必死に顔をそむけた。



「大丈夫よ」

じわり、じわじわ。

ゆっくりと、けれど確実に、その身を支配していく熱。

それに抗いながら微笑って見せた。



「少し疲れてしまったみたい」

咽喉につまりそうになる言葉を、一語一句ずつゆっくりと口にする。

次第に熱に侵されていく吐息を、深く吸い込むことで抑えた。



「主様、ボクがお部屋までお送りしましょうか……?」

ふれようとした指を拒み、唇に鎧のような笑みを貼り付ける。



「平気よ」

ふらつきそうになる足を叱咤して、階段を上る。



「先に部屋で休んでるね、しばらく一人でいたいの」

それだけを告げて廊下の先へと往ってしまう。

コツ、コツ……と遠ざかっていく靴の音が、それぞれの胸の軋みを加速させた。
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