第7章 惑いの往く末 後編 *【🌹 、not 最終行為】
傷つけるつもりも、怖がらせるつもりもなかった。
彼女の部屋を飛び出して、2階の執事室へと続く廊下を歩きながら、アモンは後悔にうなだれていた。
初めて会った時から惹かれていた。
突然この世界へと誘われ、自分たちのあるじとしてこの屋敷に留まることを了承してくれた彼女の気高さに。
エスポワールの街で自分とラムリの為に怒ってくれたその勇気に。
銀糸に白藍色が混ざりあったような、珍しい色合いの髪に、大きな紺碧色の瞳。
美しい容姿を持ちながらも、
その彩色を称賛される度にみせる苦々しい表情に、アモンはどうしようもなく惹き付けられた。
その原因を、彼女の心を苛む全てをこの手で取り払いたい。
そう願うと同時に、たとえ相手が誰であっても決して怯まずたじろがず、
凛とした姿勢を崩さないヴァリスに、どろりとした独占欲を抱いたのも事実だった。
あなたが欲しい。
あなたに触れたい。
オレだけをみていて欲しい。
最初に首筋にキスをした時には、あんなことまでするつもりはなかった。
けれど、初めて触れて彼女の身体はあまりにも甘くて滑らかで、自分を止められなかった。
「っ………!」
今はほとんど使われていない小さな部屋に足を踏み入れ、後ろ手に鍵をかける。
そして懐から己の武器である薔薇の鞭を取り出した。
彼女の涙に後悔しながら振るいはじめる。
肌を打つ鞭は、普段自分を戒める時よりもずっと重く、痛かった。