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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


「——ユーハン、お前はあの女のことをどう思っている」

かた、かた、と揺れる馬車のなか、主君が切り出す。

紅玉の瞳は切り裂くような刃を放ち、彼の出方を注意深く窺っていた。




そんな主人に対し、言葉の吟味を重ねつつ唇をひらく。




「したたかな女性と評されているから、どれ程傲慢なのかと思っていましたが、

私の想定以上だったかと存じます」

ユーハンの内で灯った好感に気取られぬよう握りつぶす。



整いすぎた儚げな美貌。楚々とした佇まいと落ち着いた物腰。



フブキの視線に怯えながらも、たじろがなかったその勇気に、彼は感銘すら覚えたのだ。



極めつけはあの瞳。澄んだ色彩でありながら、どこまでも深く淀んでいて………。

なんて寂しい眼をした女性なのだろう。心からそう思った。



その双眸は「悪魔執事の主」として生きていくにはあまりに繊細すぎる彼女の心の叫びなのか。



それとも。



フブキは鼻を鳴らした。



「どうせ虚勢を張ったただの小娘だろう」

そう告げる瞳は煮え立つような憎しみを宿している。

それに気づきつつも、ユーハンは再度唇をひらいた。



「私には何らかの重責を抱えているように視えましたが」

そうつぶやくと、あるじの眼が好奇に光る。

嘲笑に歪めた唇は腹心の観察眼を愉快そうに嗤っていた。
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