• テキストサイズ

焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔【P128 ~ 🫖*】


午後四時頃。かた、かた、と馬車が揺れている。

帳をしめた硝子に映る、みずからのおもてはわずかに強張っていた。




(……馬車に乗ってから胸騒ぎが加速したみたい)

唇をかんで散らしていると、ルカスの指が伸びてくる。


さら……と髪を撫でられ、その仕草にはじめて彼のほうをみた。



「大丈夫ですよ、主様。私があなたのお傍にいますから」



「!」

その視線の先に、優しい眼差し。

と同時に、瞳に宿っていた、霞のような邪念のヴェールがさっと消え去った。




ルカスはただにこにこと微笑んでいる。

その表情にヴァリスの胸に広がる、染みのような惑い。




(あの夜と同じ……。)

微笑んだ唇に、何処か別の思惑が滲んでいる。

ざらつく心中を見透かされたように感じて、そっと瞳を伏せた。




きゅ、と膝の上で重ねあわせた指を握り、睫を震わせる。




(どうして、こんな風に感じるの)

彼に見つめられると、何もかもを見透かされそうで。

それが何だか落ち着かなくて、さっと視線を解いた。



(主様、)

そんな彼女のさまに、ゆらめくナックの瞳。

長い睫の影に隠した双眸は、彼には図り知れない混沌を映していた。




知らず指を伸ばしかけた時、カタン、と馬車が止まる。




「主様、御到着でございます」

御者台からベリアンが告げる。

馬車の扉があいて、彼が手を差し伸べてきた。



「っ………。」

彼女が馬車から降り立った時、ふいに感じた何者かの「視線」。



思わずさっと瞳を巡らせ、そして気づく。

黒曜と臙脂(えんじ)色を基調とした軍服を纏った男達———おそらくはグロバナー家に連なる近衛隊騎士だろう———が彼女を見ていた。
/ 189ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp