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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


「これで同盟は締結された。細やかな事項はルカスに聞いてくれたまえ」

傍らの部下から書類を受けとり、その唇に笑みを刷く。

その宣言の直後、フブキが席を立った。



「ユーハン、往くぞ」

ふたりの護衛剣士のうち、年若いほうの男性に告げる。



「はい、フブキ様」

無機質な声で答え、主人に続いて立ち上がった。

フェアリーストーンの瞳は鎧のように感情のひかりが伺えず、ヴァリスは思わず彼をみつめる。




刹那、こちらへと瞳を巡らせた彼と視線がかち合う。




「!」

その瞬間、彼は瞳を和らげ、密やかに微笑んだ。



『では、失礼いたします……ヴァリス殿』

声なき言葉。彼女にだけわかる程度の微笑。

瞠目する瞳を穏やかな眼でみつめた後、さっと身を翻した。



ヴォールデン家当主一行とポートレア家当主一行も辞していくなか、

ルカスのほうをふり返った時、徐に声をかけられる。



「ヴァリス、少しいいかな」

声の主はフィンレイだった。先刻と同一の笑みをのせて、こちらを見ている。



「は……はい」

立ち上がりかけた腰を戻し、黒曜の瞳を見返す。

その視線の先で、再度唇をひらいた。



「フブキという男に気をつけるといい」

穏やかな眼。されど混濁のヴェールに覆い隠された瞳。

問うように見交わす双眸に、彼はさらに続けた。



「先程は牽制したが、あの男がこのままこの同盟に甘んじる訳がないからね」

諭すような口調に、ヴァリスはその眼をまっすぐに見つめて告げる。



「ご忠告ありがとうございます。でも……私は、」

清水のように透んで、だのにたしかな意志の滲む声音。




その両目をみつめたまま、ありのままの心を口にした。




「自分で視て、ふれて、感じたことを信じているんです」

瞬間、長剣の塚にふれかけた部下——視察隊長——を制す。
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