第4章 病魔 前編
五組の靴の音が廊下へと往く。
グロバナー家視察隊の隊長と名乗った男の先導で。
その間も、四方八方から彼女へと視線が注がれた。
ひそ、ひそ、………ひそ、ひそ。
ある者は手にした扇で唇を隠しながら、
またある者は冷えた眼差しでじろじろと彼女を検分しながら。
上品で上質な仕立ての服を纏った人々が口々に囁いている。
「あの小娘が例の……?」
「そのようです。
噂ではかなりしたたかな小娘と聴いております———何でも下劣な平民相手に彼らをかばって見せたとか」
(……この人達も街の人達と同じみたい)
身体の前で重ねあわせた指を曲げて、金の指輪にふれる。
天使がいなくならないのは皆のせいではないのに、
守られている立場で彼らを憎んでいるなんて………。
胸のなかでは染みのような哀れみが滲んでいる。
そっと瞳を伏せ、その感覚を覆った。
やがて男はある扉の前で立ち止まった。コン、コン、と控えめに叩扉する。
「フィンレイ様、例の主をお連れしました」
「入りたまえ」
厳かな声が入室を許可する。彼のあとに部屋のなかへと足を踏み入れた。
「失礼いたします」
そこは会議室のようだった。
フィンレイと呼ばれたその男の傍らに、若い男性が控えている。
バーントシェンナ(赤橙色)に若竹色の裾カラーの入った髪が印象的な青年だった。
スミソナイトの瞳も、快活に煌めいている。
そしてフィンレイと対面する席の形で、
黒曜の長髪をひとつに結わえた——鮮烈な色の着物を纏った男が、
紅玉の冷たい眼で、こちらを睨みつけるように見据えている。
その後方にふたりの剣士——年嵩のほうは白磁の髪に露草色の瞳をしており、
もう一人は漆黒に茜色の裾カラーの混ざりあう髪、
温かみを帯びたフェアリーストーンの瞳をもつ男性——を伴っている。
その一行の両端の席に煌めく宝石で裾を留めたターバンと白磁の髪で目元を隠した男、
金糸雀緑の長髪をふわりと背に垂らし、
その肩にフクロウを連れた男が、やはり二人の護衛騎士を従えていた。