第2章 寮の怪異事件
「君の呪力、循環してないんだ。術師の呪力って、本来は体内を回って、術式に使うために溜めておくものなんだけど──
君のは違う。まるで“放出型”の呪力体質。体に留まらず、外に流れ続けてる」
「……それって、変なんですか?」
「変なんてもんじゃない。君の呪力は、術師でありながら、非術師の“呪力漏れ”と同じ現象を引き起こしてる。でも違うのは──その呪力が、“圧倒的に濃い”ってこと」
五条は立ち上がり、香久夜の周囲に手をかざす。
空気が揺れた。
まるで、そこだけが沸騰しているかのように。
「……普通の人間の負の感情って、呪霊の“餌”になるんだ。でも君の呪力は、術師のそれ。濃くて、強くて、上等な味がする。つまり──とんでもないご馳走ってわけだ」
「…………」
香久夜は、息を飲んだ。
まるで、自分が“呪霊を引き寄せる灯台”にでもなったような気分だった。
「君の負の感情が強ければ強いほど、呪霊は引き寄せられる。術師である君の感情は、普通の人の何倍も“旨味”があるからね」
「……じゃあ、私が悲しくなったり、怖くなったりするだけで、周りの人が、危なくなるってこと……?」
「……そういうこと」
その瞬間、香久夜の顔から血の気が引いた。
「でも、制御できるようになれば問題ない。逆にいえば、“制御できるようにならなきゃ”──君は存在してるだけで、災害になる」
五条は笑っていたけど、その目は、底なしの深淵のように真っ直ぐだった。
「だから、やろう。まずは、自分の呪力を“呼び戻す”感覚を掴もうか。
自分の中に、溜めて、巡らせる。循環させる。……君なら、できるよ」
香久夜は、ぎゅっとペンダントを握った。
何かが、心の底で蠢いていた。
それが希望なのか、恐怖なのか──自分でも、まだわからなかった。