第2章 寮の怪異事件
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「んー……まず、呪力を認知することから始めようか。」
五条がそう言って指を鳴らすと、道場の床に円が描かれた。
「ここに立って。で、血液とは別に、自分の体の中に循環する”熱”みたいなのを感じるんだ。もし、”そういうの”があれば。」
香久夜は静かにうなずき、円の中にすっと立った。
「術師なら誰でも通る最初の一歩。大丈夫、怖くないよ」
五条はいつもの軽い調子でそう言いながらも、香久夜の様子をじっと見つめていた。
「……はい」
香久夜は目を閉じ、呼吸を整えた。
自分の内側に集中する──そのはずだった。
「……わかん、ない」
「………ほんとに?あったかい流れみたいなものだ」
五条は目を細め、香久夜のお腹に手を当てた。
「……感じる?香久夜」
その瞬間、暖かい空気に包まれたような気がした。」
「なんとなく……あります。
でも、私の中に、じゃなくて……こう……包まれて、私の中を通って出ていく、みたいな」
「……やっぱり、か」
五条の声は低く、わずかに真剣な響きを含んでいた。