第2章 寮の怪異事件
部屋に戻ってからしばらくして──
誰かが、扉をノックした。
「……伏黒くん?」
開けると、伏黒くんが荷物を一つ、肩に担いで立っていた。
服を着替えていて、少しだけ髪が乱れていて。
──なんでだろう。何か、見てはいけないものを見た気がして、思わず目をそらす。
「な、なんかあった?」
私の問いに、伏黒くんは少しだけ黙ったあと、簡潔に言った。
「……ここで、しばらく一緒に寝泊まりすることになった」
「…………え?」
言葉の意味を、脳が理解するまで少しかかった。
「一人にしておくのは危ない。夜、なにか起きるかもしれないし。……五条先生の命令だから、入るぞ」
「えっ、でも……えええ!? 一緒に暮らすって、その、えっ……!?」
つい、声が裏返る。
……というか、ちょっと待って。え?ええ?
伏黒くんは全く動じる様子もなく、静かに中に入ってきて、部屋の隅に荷物を置いた。
「俺は床で寝る。お前はベッドでいい。……別に、何もしないから」
「な、なにもしないとか……え?
な、なにかされる前提だったの……?」
──って、なに言ってるんだ私。
顔が、変な熱でいっぱいになる。
慌てる私に伏黒くんはちょっとだけ口の端を上げて、それからふっと目を伏せた。
「……そういう意味じゃない。落ち着け。」
初めて見た伏黒くんの笑顔に、時間が止まったのかと思った。
「わ、笑うんだね」
「お前、喧嘩売ってるのか」
「ご、ごめん!支度するの、手伝い、ます」
そう言って、床に布団を敷くのを手伝った。