第5章 寝落ち
「あぁ、理解さん。うさぎがいたんですよ」
ほら、と理解さんに向かって差し出される。
お、おぉ。また事故が起こるかと思った。いや、まぁ今はうさぎだからいいけども。
「うさぎ? ……まさか」
「理解さん、心当たりでも?」
「以前、依央利さんが夕食に野うさぎの入ったカレーを作ったことがあったでしょう」
「ありましたね」
「あの時、依央利さんは野うさぎを自分で狩るという話をしていたので、もしかしたら……」
「プゥプゥ!(違います違います)」
食べられてたまるか。
「ほら。こんなにも必死に鳴いてますよ。きっとそうに違いありません」
ちがーう。
「こんなに元気なのに食べてしまうのは忍びないですね」
天彦さんの声音に同情が混じる。
「しかし我々は多かれ少なかれ命をいただいて生きています。そのことを改めて胸に刻み、感謝して食べましょう」
「そうですね」
食べるの確定!? うそでしょ!?
まずい。これはまずい。逃げないと。
思いのほか体は柔らかく、身をよじっているうちに天彦さんの手から滑り出ることができた。
玄関。玄関に向かわないと。
この時私は、自分の体のサイズを考慮していなかった。
そして玄関までたどり着いて、絶望する。
(ドア、開けられない!)
後ろからは天彦さんと理解さんが追って来てるし、もう逃げ場がない。
どうしよう。捕まっちゃう。
困り果てていると、どういうわけかドアが自動で開いた。
「あれー? 二人ともどうしたんですか?」
入って来たのは依央利さん。
彼はなぜか大きなマグロを担いでいる。
「依央利さん!? どうしたんですかそれ!」
天彦さんの驚きの声が依央利さんに向かって投げかけられた。
「今日の朝食用のマグロです。漁船に乗って釣ってきました」
「自ら!? マグロを!?」
理解さんも驚いてる。私だって喋れてたら同じリアクションをしただろう。
でも今はそれどころじゃない。
せっかくのチャンスだもん。この隙に逃げよう。
私はまだ開いているドアの隙間めがけて全力で走った。
なんとか逃げることに成功した私は急いで建物から離れることにした。