【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第5章 この手を離さない【1月】
side.仁王雅治
俺はまた前を向いて歩き始めた。
「…なあ?名前」
「うん?」
「手、繋いでくれん?」
「…うん」
俺の差し出した手を、名前はそっと包んでくれる。
「…ありがとな」
「うん」
俺が小さく呟いた声は、名前に届いていたらしい。
後ろを見ていないから彼女が今どんな顔をしているか分からない。
だが、きっと困った顔をして笑っていると思う。
俺にはこの暖かい手がある。
俺には名前がいる。
この手があれば怖くない。
馬鹿な名前。
俺がどれだけ君という存在を必要としているのか、分かっていないのだろう。
こうして何も聞かずに寄り添ってくれる。
一緒に歩んでくれる。
どんな俺でも受け入れてくれる。
名前の隣はとても居心地が良い。
彼女が与えてくれる適度な距離に、俺は救われている。
底知れぬ安心感をもたらしてくれる。
今思えば、この時から君は俺の心の拠り所だった。
もしも、また巡り逢えたら、俺は二度と君の手を離すことはない。