第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
父上は鼻を鳴らし、合わせたはずの襟を正した。
「父上!」
「静かにしないか。はなが起きるぞ。俺達は夕餉を済ませた。お前達にはうな重を買ってきてある。好きな時に食べれば良い。言っておくが、お前のためではないからな。はなのためだ。愚息が心配かけた詫びだ。…居間に置いておくぞ」
「ありがとうございます」
父上の肩から、はらりと桜の花弁が落ちた。俺たちに気を使い夕餉を済ませ千寿郎を夜桜見物に連れ出してくれたのだろう。
窓から見える空はいつのまにか雨も止み、藍色に変わっていて、随分長い時間ハナを抱いていたことを知った。
「よもやよもやだ…」