第1章 誘 惑 の 媚 香 [煉獄杏寿郎]
槇寿郎が穏やかに笑うと、杏寿郎、はな、千寿郎も新年の挨拶を続けた。
挨拶を終えると、おせちの時間だ。
栗きんとんの栗は、搗ち栗(かちぐり)が勝ちに通じることから戦いの前の肴とされていた。
はなは戦いに勝って欲しい。その願いを込めて杏寿郎の皿に乗せた。
「杏寿郎様、どうぞ。勝ちを頂いて下さい!」
はなから皿を受け取り口に含むと、滑らかな芋と柔らかく煮た栗の甘さが口に広がった。
先ほどまで胸の中にあった苦味が甘さに変わった。
『はなさん、美味い!!』
自然な笑みがこぼれ、自然に笑えたことに二人は安堵した。
食事も終わると、槇寿郎と千寿郎は出掛けて行った。
なんでも、瑠火の生家へ正月の挨拶をするとのことだった。
久しく顔を出していないことを気にかけ、千寿郎の顔見せがてら行く…と言う事が食事の前の話であった。
久しぶりに行く母の生家に千寿郎も大喜びで、早々に支度をし出掛けて行った。
『はなさん、俺達も出掛けないか?初詣でも…どうだろうか?』
「はい!」
二人は支度を整えると初詣へ向かい、おみくじを引き楽しい時間を送った。
その帰り道、思わず手が触れると杏寿郎は手を引いてしまった。
「杏寿郎様…?私に触れるのが嫌になってしまわれたのですか?」
思わず立ち止まった。
『そうではない!そんなことがあるわけなかろう?少し…君に触れることを我慢せねばならんと思ってな。はなさんが、あんなにも一生懸命におせちを作ってくれたと言うのに、俺は…不甲斐ない。』
「杏寿郎様に触れて頂けない五日間は…とても長かったです。」
『それは…我慢しなくても良いと言うことか…?』
「はい…さっきはごめんなさい。もう我慢しなくて良いですよ…」
真っ赤になって言うはなを杏寿郎は横抱きにし、屋敷まで一気に走った。
『やはりはなさんは俺を煽るのが上手い。今日は五日分…堪能したい。』
「杏寿郎様のお好きな様に…」
なんと…困ってしまう程愛らしい。
はなさん、今年は…忘れられない正月になりそうだ。
杏寿郎ははなをぎゅっと抱きしめ、甘い時間に期待が高鳴る。