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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第3章 懐 想 [煉獄杏寿郎]バレンタイン



俺はバレンタインデーをどのように過ごしたら良いか正直わからなかった。
義理だ本命だのと、気持ちを向けられるのは嬉しいが…
応えられない以上、難儀だ
しかし…今年は……



「杏寿郎さん、14日はお仕事は遅くなりそう?」



耳に当てたスマホから、愛しい人の声がする

14日か……特段遅くなる予定はないが、生徒達に不測の事態が起きればなんとも言えないと言うものだ

職場である学校へ向かう為に車のエンジンをかけようとした時だった

彼女とお揃いで買ったスマホが震えながら俺を呼んだ


画面をチラッと見れば、見過ごせない名前が表示されている

エンジンをかける手を止めて、スマホに手を伸ばした。

『はな?おはよう。朝から電話とは珍しいな?どうした?』

朝から彼女の声が聞けるなど、何の褒美だろうか

「おはようございます。杏寿郎さん、忙しい時間にごめんなさい…聞きたいことがあってね?」

何でも聞いてくれ
あぁ…声を聞いてしまえば、会えなくても我慢していた気持ちが抑えきれなくなりそうだ
そして…電話からでもわかる
今君は胸が高鳴っているな?
俺もそうだ

『どうした?』

「杏寿郎さん、14日お仕事は遅くなりそう?」

『14日か…特段遅くなりそうな予定はないが…もし補習などがあれば多少遅くなるかもしれんな…』

「それなら…私杏寿郎さんのお部屋で待っていてもいい?」

彼女が何を考えているのかはわかってしまう
それ故に顔は綻び、声も弾んでしまう

『あぁ!もちろんだ!』

エンジンのかかっていない車のハンドルを意味もなく擦ってしまうのは、この弾む気持ちが手にまで伝わっているからかもしれない。

「ありがとう!じゃあ14日にね。気をつけていってらっしゃい」

『あぁ、14日に。いってきます。はなも気をつけて。』

電話を切った後も耳に残る可愛らしい声

いってらっしゃい

この一言で俺は、今日一日いつもより頑張れるような気持ちを与えるくれる。

これは彼女の持つ不思議な力だと思う。


杏寿郎はエンジンをかけ駐車場を出発した。

通い慣れた道

信号が赤ばかりでも、前にノロノロ運転の車がいようと
今日の俺ははなとの時間を待ち焦がれるあまり、その時間さえ愛おしくなってしまう。


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