第1章 誘 惑 の 媚 香 [煉獄杏寿郎]
山の雪化粧が美しい。山の輪郭もはっきりと見える。
そしてその谷間から、太陽が顔を出すところだった。
これだけよく景色が見えると言うことは、それだけ寒いということ。
『はなさん、日の出と言うのは感慨深いものがあるな。俺が鬼殺隊に身を置いているからであろうか?』
そうしみじみと言う杏寿郎の口からは白い息がフワッと上がった。
「それもあると思います。でも…日の出は誰にとっても特別です。一日の始まり。また大切な人との時間が始まる素敵な知らせです。」
はなの口からもフワリと白い息が上がる。
『そうだな。特に今日は一年の始まりだ。不思議だな。太陽はいつだって変わらないのに、一年の始まりの陽光は特別美しく感じる。』
杏寿郎が日の出の光を見つめていた瞳をはなに移した。
『はなさん、改めて…明けましておめでとう。今年も宜しく頼みたい。はなさんと年を越せて、時を重ねることができて、俺は幸せだ。昨年より、今年、昨日より、今日。君を愛している。』
杏寿郎がはなを見つめる。
「杏寿郎様、明けましておめでとうございます。こちらこそ、今年も宜しくお願い申し上げます。私も…杏寿郎様のこと鼓動が一つ一つ鳴る度に…お慕いする気持ちが大きくなっています。杏寿郎様…私も愛しています。」
今年最初の日の出が二人を照らす。
縁側に写る二人の影は次第に近づき重なった。
『唇が冷たいな。』
杏寿郎がはなの唇をなぞった。
「杏寿郎様も、頬がとっても冷たいです。」
はなが杏寿郎の冷たくなった頬を両手で包んだ。
『手は温かいな。』
「はい…杏寿郎様が温めてくださっていたので。」
杏寿郎の手が寒いだろう…とはなの手を包んでいた。
そのままはなの唇に添えた手を項に滑らせると、自分の方へ引き寄せて口づけした。
『太陽も全て顔を出したな。そろそろ中へ入ろうか。』
二人は縁側から腰を上げ、杏寿郎の部屋へと入った。
「私は、おせちの支度をしてきます。杏寿郎様は体を温めて下さい。」
すると杏寿郎が後ろから抱きしめた。