第9章 凪の奥の激情[冨岡義勇]
そして欲を知った。はなを深く知りたいとの欲だ。
恥じらうように目を伏せて俺のものになりたいと言ったはなの手に己の手を重ねれば、ぎこちなく握り返してきた。
「私、初めてなんです…男性をしらなくて、義勇さんを満足させられるかわかりません。だから、私に構わず義勇さんの動きたいように動いてください」
「無理はさせたくない。…が、俺も男だ。お前を前に己を抑える自信もない。不甲斐ない男ですまない」
「いいんです。どんなあなたも受け入れたいと思っていますから」
伏せていた目を上げて言ったはなに、返事の代わりに口づけた。
舌で口唇を割れば、はなは従順にそれを受け入れぎこちなく絡めてくる。その辿々しさが、欲望を掻き立てた。
着物の裾から肌に触れた。
指先を滑らせるたび、はなは体を震わせ甘い声を吐く。それでも俺の舌に必死でついてくる姿が堪らなく愛おしい。
「んっ…んぁっ…」
帯を解き、着物を肩から落とし、襦袢だけを纏ったはなは強い色香を放っている。
襦袢の上から丸みを帯びた線をなぞり、突起に行き着く。指の先で引っ掻くと、布一枚隔てていてもわかるほど硬さが増した。
「義勇…さん…」
「じれったいか」
「…はい…でも、恥ずかしいです…」
「俺しか見ていない」
恥ずかしいと言ったはなの襦袢の紐をそっと解くと、頬を染めながら体の力を抜いた。
「恥ずかしいから…あまり見ないでくださいね」
俺の腕の中で小さく呟いた声を聞いた時、白く滑らかな肌を余すことなく暴きたいとの劣情が湧き立った。
だがそれと同時に、俺の抑えることのできない想いをはなに伝えなければならないとの思いも生まれた。
はなと絡めたままの指先に熱が籠る。
「……俺は、鬼を狩ることしかできないと思っていた。誰かを幸せにするなど俺にはできないと」
低く落ちる声は、自分でも震えているのがわかった。それでも言わなければ、と喉に力を込める。
「だがお前には……ちゃんと伝えたい」