第2章 風 の 憂 鬱 [不死川 実弥]
昨日の夕方のことだった。
任務へ出掛けようとした不死川の元に、鎹鴉がやってきた。
遠くからでもわかる風貌は、相棒の宇髄の様に派手だ。
脚に括られた文を開くと
゛明日の昼前に屋敷へこい。"
たった一言こう書かれてきた。
『めんどくせェ。
わかった。そう伝えてくれェ』
不死川は虹丸にそう伝えると、風の様に走って行った。
任務を終え、屋敷へ戻り休息をとる。
夜から朝にかけて冷えきった空気が、陽光の暖かさでいくらか暖かさを帯びてきた。
『そろそろ支度しねぇとかァ。』
浴衣から隊服に着替える。
羽織を纏えば、いつだって沸々と血が湧き立つ。
鬼を殲滅する
その思いだけでここまでやってきた。
家族を殺した鬼への仇。
唯一生き残った弟が…鬼の脅威に曝されず幸せに暮らせるように。
笑顔で暮らせるように。
『それが鬼殺隊に入るなんざぁ、バカが過ぎんだァ。くそがァ』
今はそこに、あいつの幸せの為に。そんな理由が加わった。
そして、日輪刀を帯刀し、屋敷を後にした。
宇髄への屋敷までは少しばかり距離がある。
『鍛練にちょうどいい』
落ち葉を巻き上げて、走り抜けた。
宇髄の屋敷に着いたのは、言われた通り昼前だった。
門へ手を掛けようとした時
『不死川ではないか!君も宇髄に用が?』
振り向けば、はなをしっかりと抱いた、杏寿郎の姿があった。
『なんだァ?煉獄と…はなもかよォ。用も何も急に来いって連絡があってよォ。迷惑な奴だァ』
そんな事を言いながら、はなの姿を見てしまえば嬉しくなってしまう自分がいた。
煉獄が抱き上げていることは気に入らねぇなァ
そんな事を思っていたら、はなの首元に花が咲いている。
杏寿郎がそれを隠す様に襟元を直すところを見ると
あいつがつけたんだろォ…隠したってもうバレてらァ
察しがつく。
『気分は悪くないか?』
そう聞かれたはなは…少し頬を染め女の顔だった。
あいつにあんな顔させられるのは…煉獄しかいねェ
そんな二人から目を背けてしまった。