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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第8章 evergreen[不死川実弥]



「兄ちゃん、俺ちょっと炭治郎たちと合流していい?」

「あぁ。この混みようだ、気をつけなァ」

「遅くならないように帰るから!」

「おう」

 夏休みのど真ん中、学園の生徒たちがはめを外していないか見回りがてら夏祭りに繰り出した。
 竈門と合流すると言う玄弥の背中を見送って、周りを見渡せば、誰もが幸せそうな顔をして通り過ぎて行った。
 
 境内に提灯の光が、すれ違うやつの顔を照らしている。一人一人の顔を確認しながら進む。これは昔からの癖だった。俺には探している女がいる。忘れもしねぇあいつは、俺のことを覚えているのだろうか。
 見回りを理由にガラにもねぇ夏祭りに繰り出した自分に笑っちまう。大勢集まるところなら、はなを見つけられるかもしれねぇと淡い期待を持っているからだ。

「んな簡単にはいかねぇよなァ」

 下駄を鳴らして進む先にラムネの屋台が見えた。氷水に沈む瓶は、月明かりと提灯の灯りを飲み込んだように透き通っていた。
 ふと、その屋台の奥に一本の常緑樹があるのに気づいた。
 夏の夜でも深く青い葉を茂らせ、静かに揺れている。あの日、庭で見上げた木を思い出し胸の奥で何かが温かく爆ぜ、懐かしい匂いまで蘇ってくる。
 夏になるとはなとラムネを飲んだ。あいつは栓を開けるのが下手くそで、ラムネより瓶に残ったビー玉が好きだった。

 久しぶりに飲んでみるか。
 最近じゃ見ることもなくなったガラスでできたラムネの瓶に手を伸ばした瞬間、隣から伸びていた指先と俺の手が触れた。

「すまねェ」

 顔を上げて驚いた。俺の目の前に探し続けたはながいたからだ。境内のざわめきが遠のいて、提灯の光が俺たちを照らしている。悠然と立つ木の葉擦れの音とはなの声が重なった。

「実弥さん…」

 目が合った途端、はなの目からビー玉みてぇに大粒の涙が溢れてきた。その泣き顔は、昔のハナと重なって見える。あいつはラムネの栓を開けられず困っていつも俺に助けを求めた。その手を取った瞬間のぬくもりが、今も指先に残っている気がする。

 覚えてたのか。俺のことを──

「ラムネの栓…開けてやらァ」

「はい!!」

 胸の奥で何かが解けていく。
 俺は瓶を手に取り、栓抜きを押し込んだ。ビー玉がカランと落ちる音が、止まっていた時間を再び動かし始めた。
 
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