第8章 evergreen[不死川実弥]
途切れ途切れに名を呼ぶはなの声は、昼間食べたおはぎより甘かった。
体の力も抜け、縫い付けたままの手首も抵抗をやめていた。
「痛かったら言え。無理はすんじゃねェ」
「実弥さんから貰うものなら、痛みだっていい」
「バカ言ってんじゃねェ! はなの負担が大きいだろォ! 俺が一人悦くなったって意味ねぇんだよォ」
「私は実弥さんのためならどんな痛みだって、試練だって耐えられる。私の気持ちをみくびってもらっては困ります」
きっぱり言い切ったはなを見て、何かが爆ぜた。
「そうかい。なら遠慮なくだァ」
「んっ…」
男が入ったことのないソコに指を当てゆっくり埋めると、はなは小さく息を漏らした。苦悶か快楽かの見分けはすぐについた。花芯を擦ると俺の指を導くように脚を開き、腰を浮かせたからだ。
反応を見ながら指の腹で撫で上げると、はなは見せたことのない艶のある目で俺を見た。
「もっと欲しいっつう顔してやがる」
「そんな顔してません…!」
「恥ずかしがることじゃねぇだろ。おめぇの物欲しそうな顔も、開いちまう脚も、俺の指を飲み込むココも、どこもかしこも俺のもんなんだろォ?」
「……はい。全部実弥さんのもの」
「他の野郎には触らせんじゃねぇぞ。他の男のところにも行かねぇでくれ。俺の傍らに…いてくれ」
言うつもりなんざぁなかったのによ。おめぇの熱に当てられたのか。心の奥底に固まっていた本音が、はなの熱に溶かされたかのように溢れ出した。
何年ぶりかだろうか。こんなバカ正直に想いを曝け出して心を通わせたのは。生きるってのは、こんないいもんだったか。
「実弥さんだけ。私の心も体も実弥さんしか知らなくていい。他は何もいらない…だから、私の体が実弥さんを忘れないようにして──」
「覚悟しとけ。そこまで言っといて他の野郎に触らせたら化けて出てやるからなァ」
「実弥さんなら幽霊だろうが、妖怪だろうが喜んで」
俺は口下手だ。下手な言葉を使うよりも、体温を分け与えた方が伝わるような気がした。
俺がどんなにおめぇを想っているか──。