第7章 promise[煉獄杏寿郎]
手が震えてしまう。まだ夢ではないのかと疑ってしまう自分と、はなに逢えた喜びが渦を巻いて心をかき乱してくる。
「私も逢いたかった…」
もう限界だった。
ロードバイクから手を離し、はなを抱きしめていた。
誰に見られているかなんてどうでも良かった。
ただはなを離すことはしたくない。その一心で腕を伸ばした。
細く壊れてしまいそうなはなの体は、百年経っているとは思えないほど俺の体にぴったりとはまった。
懐かしい香りと体温に、あの頃の記憶が一気になだれこんでくる。
これは夢ではない。はながここにいる。
「やっぱり私と杏寿郎様を繋いでくれましたね。巾着の中は、あの子の臍の緒なんです。命を繋ぐことで杏寿郎様に逢える気がしました。だから託したのです。私と杏寿郎様が存在した証であるあの子に」
「あぁ。君の言った通りだった。確かに繋いでくれたのだな。だからまた巡り逢えた」
「はい」
俺の背中に回した手が、巾着をしっかりと握り込むのを感じた。
「もう君を置いていかない。俺とずっと一緒にいてほしい」
「はい…!」
そっとはなの体を離して頬に手を添えた。
とめどなく流れる涙を、今度はしっかりと拭う。目尻に唇を落とすと、温かい涙が唇を濡らした。
生きているのだ、俺もはなもこの世界に。
はなに想いを吹き込むようにキスをした。何度も重ねた唇の感触が懐かしく愛おしい。
重ねるだけのキスで充分心は満たされる。
どれほどの時間が経ったのだろうか。はながそっと唇を離すと、俺を見て優しく笑う。
「杏寿郎様…お誕生日おめでとうございます。生まれてきてくれてありがとう」