第7章 promise[煉獄杏寿郎]
そこまで言うと、父上は俺のそばにきて姿勢を正して頭を下げた。
「黙っていてすまなかった」
「父上、顔を上げてください。何か事情があったゆえなのではないですか?」
「…約束したのだ」
「はなとですか?」
「あぁ。生まれ変わることがあったら、自分の口から言いたいと。だがお前がそれを持っていると言うことは、はなと逢えたと言う証だ。だが、まさか…大正のはなに逢ったとはな」
約束か。宇髄もはなと約束したと言っていたな。
はながした約束が俺の人生を豊かなものにしていたのか。
やはり君には敵わないな。
***
母上の手料理をたらふく食べて、千寿郎が買っておいてくれたさつまいもプリンも味わった。
父上から聞いた話を消化するにはプリンを食べるようにはいかなかった。
嬉しさと悔しさが交互にやってくるのだから。
しかしそれと同時に、つい頭から抜け落ちる誕生日がまわりの者たちの優しさや愛情によって成り立っているのだと知った。
俺がこの世界に生まれたのは、愛おしい者たちが繋いできてくれたから。だがら誕生日に起きた事は大切に胸にしまっておこう。
再びロードバイクに跨って向かうのは、宇髄が予約してくれた居酒屋だ。
時計を見ると時刻は18時20分。まだ早い。
ロードバイクは押して歩いて行こう。まだ暗闇に飲まれる前の空を眺めながらゆっくり進む。
そう言えば、この巾着には何が入っているのだろうか。
好奇心に駆られ胸の前に持ってきてあるボディバッグに手を伸ばした。
歩を進める度に揺れる巾着に指先で触れてみる。空ではない。何か入っている。手紙か何かか、とも思ったが紙の感触でもない。
開けるか…? いや、やはり辞めておこう。はなに逢えたら訊いてみよう。
そう決心して、ボディバッグを背に回した。