第9章 過去
『行先も理由も分かりません。多分硝子さんだけだと思います』
それだけ返すと、出かける支度を始めた。
15時。
渋谷駅にて私は愕然としていた。
「やあっ!名前!待った?」
「えっ?何で悟さんがいるの?」
「ごめんな。行くって聞かなくて」
えー。
普通、婚約者だからって、私の行く先々に着いてくる?
「だって名前の過去を視るんでしょ?僕だって気になるじゃん」
「えっ?セラピストさんに会うんじゃ…」
「表向きは確かにセラピストだよ。ただ過去世が視えるやつなんだ」
「へぇ…」
私以外にもそんな人がいたんだ。
世間は狭いな。
「名前は断片的にしか記憶ないんでしょ?」
「そうだね」
確かに悟さんを好きだったこととか、約束したことしか覚えてないや。
歩きながら話していると、硝子さんが足を止める。
「ここだよ」
「こんな身近にあったんだね」
「僕も知らなかったよ」
そこは如何にも「マッサージ屋さんです!」みたいな場所だった。