第4章 婚約
「名前。名前。おーい」
悟さんの声で目を覚ます。
「着いたよ」
「ん?えっ?どこ?ここ?」
車から降りると、目の前にはでっかい御屋敷。
えっ?
本気でどこ?
変な汗が垂れる。
「ここ僕の実家ね!ようこそ五条家へ!」
「マジですか…」
「マジだよ!」
敷居が高すぎる。
「無理無理無理っ!心の準備っ!出来てないっ!」
「小心者の名前はいつまで経っても心の準備出来ないでしょ?ほら行くよ!」
「あ、今、ディスった!私の事ディスった!やだぁ!無理だって!」
寝起きで、しかも何の前触れもなく連れて来られて。
堂々とご挨拶出来るわけがない。
私は駄々を捏ねる子供の様に、悟さんの手を引き摺る。
「仕方ないなぁ」
「えっ?」
気づいた時には悟さんの小脇に抱えられていた。
「ぎゃー!人攫いー!助けてー!」
私の叫び声は誰にも届かず、あっさりと敷居を跨いでしまった。