第4章 婚約
帰りの飛行機の中。
彼は鼻歌を口ずさみながら、自分の左手の指輪を眺めている。
お揃いのプラチナリング。
げっそりとしている私とは対象的に、彼はとても嬉しそうだ。
「名前。どうしたの?疲れた?」
「うん。ちょっとね…」
「昨日、激しくしちゃったからね。着くまでゆっくり寝てていいよ?」
彼の言動に一々動揺していては身が持たない。
照れたり、怒ったり、焦ったり。
そういう感情はもう捨てよう。
私が無になることを決めた瞬間だった。
「そういえば悟さんは、呪術師の学校に住んでるんだよね?」
「うん。でも近くに家買おうと思ってるよ」
「そうなんだ」
知らなかった。
「うん。もちろん名前の意見も聞くよ?一緒に住むんだから」
「へっ?」
無になると決めたのに、フリーズしてしまった。
誰が?いつ?
一緒に住むって決めたの?
ニコニコと笑う彼を見て悟った。
そっか。
約束をしたあの時から、私には逃げ場などなかったんだ。
「もう全部お任せします」
「任せなさい」
彼は嬉しそうに笑って、私の額にキスをした。