第5章 一等星
失恋の感傷に浸る間もなく、日々は忙しくなった。
新入社員の指導係を任されたことで私の中での仕事の比率も高くなり、出社中も帰宅後もやらなければならないことが山積みだった。
私としては、これで良かったと思える。
そもそも好きでこの仕事に就いたわけだし、指導する立場から学べることだってある。
余計な考えに耽る時間が少ない方が、今の私にはいい。
「風見ー!ここ、生3つ追加でー!」
「はーい!」
私に言わず、直接店員さんに頼んで欲しい…。
この集団での飲み会は、幹事になったが最後、小間使いのような立ち位置となる。
毎年恒例の新人歓迎会は、普段はあまり関わりのない本院の社員と合同だ。
酒癖のよろしくない上司たちが倍に増えたとも言える。
この分では、お酒を楽しむどころかゆっくり食事もできないだろう。
「手伝おっか?」
「え?」
「さっきから幹事さんばっか動いてるよね。これ、向こうの席?」
「ありがとうございます。じゃあ、お願いします」
「オッケー」
届けてもらった大量のグラスを各テーブルに配っていると、初対面の男性に声をかけられた。
本院の職員とは、毎年新人歓迎会と忘年会の席でしか会うことがない。
最近入職した人……?あ、思い出した。
この前同期が話してたっけ。
中途で私たちくらいの年齢の男性が入ったって。
「いつもこんな感じなの?上司の方々」
「はい、毎回。お酒大好きなんで」
「へぇ。可愛い幹事さんには目もくれずおっさん同士で盛り上がれるなんて、おもしれー人たちだね」
「……ははっ」
なんか……チャラい人だなぁ……。
「俺、最近本院に来た藍田っていいます。よろしく」
「風見です。よろしくお願いします」
「俺も手伝うからさ、隣座っていい?」
「あ、はい…」
良く言えば、フレンドリー。
あまり私の周りにはいないタイプの男性だ。
空いたグラスを集めたり追加のお酒や料理を注文したり、何かと気を配ってくれる。
年上だろうが目上の人物だろうが臆することがないそのコミュニケーション能力は、見ていて感心する。