• テキストサイズ

雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第4章 桜の頃までそこにいて



───そうだった。
多少面白がっている節があるのは否めないけれど、先輩は人の気持ちをないがしろにする人ではない。
清瀬さんの想いも私の不明瞭な心情も、どちらもわかってくれている。

「優しいですよね、先輩って」

「今頃気づくな。昔から優しかっただろうが」

「まあそうなんですけど。先輩ってたまに誤解されるみたいだから、損だなーって思って。いつもニコニコしてたらいいのに」

「誤解?誰に?」

「当時の友達。俺に近づくな、みたいな顔してるって。粗相したら舌打ちして睨まれそうって。きっと頭悪い人間は視界にすら入れてもらえないって。あ、もちろんちゃんと訂正しておきましたよ?」

「いいお友達じゃねーか…。この顔が好きだって人間もいるんだからな」

「え!?誰誰!?」

「うちの奥さんに決まってんだろ!」

「ふふっ、わかってますって。先輩幸せそう」

「おかげさまで」

「ところでぇ、どうやって奥さんにプロポーズしたんですかぁ?」

「言うかよそんなこと!」

右手で拳を作り、マイクに見立てて先輩の顔の前に差し出す。

「いいじゃないか。減るもんじゃないだろう?」

タイミング良く室内に入ってきた清瀬さんも、私と同じ仕草で先輩に詰め寄る。

「減るわ。清らかな思い出が」

「ケチだな」

「ケチとか言うな。小学生か」

先輩と過ごす懐かしさと、清瀬さんと過ごす心地良さと。
その狭間で、この時間が終わるのが何だか名残惜しく感じた。







数時間後、アルコールでいい気分になってきた頃にこの席は解散となる。

「悪い、俺先に行くわ」

爪先を駅の方角に向けた先輩は軽く手を上げた。

「何だ?急いでるのか?」

「舞も今、飲み会終わったらしいんだ。二駅先で待ってるって言うから」

「それはそれは。仲が良くて何よりだ」

「さつきのこと、ちゃんと送ってやれよ」

「もちろん」

改めて先輩に挨拶をして、足早に去っていく背中を見送った後、私たちはゆっくりと歩き始めた。


/ 139ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp