第6章 月夜に色づく ※
触れるだけのキスから、その時間は始まる。
唇を啄み、押し付け、咥えて、そっと口を開く。
互いの舌がヒタッと重なった。
「ぁ…っ、」
口内をぬるりとしたものが撫でる。
固く握った手と覆い被さった体が、私を逃すまいとしているみたいだ。
捕らえられたままでいい。
どこにも逃さないでいて欲しい。
ハイジさんの首の裏に腕を回し、体を寄せた。
言葉もなく、二人分の息づかいと湿った音だけが空間を泳ぐ。
行き来する舌がトロリと溶けるような感覚に、力が抜けていく。
アルコールに酔った状態にも似た、跳ねる鼓動と浮遊感。
意識が朦朧として、それが心地良く癖になる。
ふと、キスが止んだ。
快感というモヤが晴れてしまうみたいで寂しくて、ハイジさんの唇に触れながら続きを催促した。
「もっと…して」
「キス?」
「うん」
「このままだと暴走しそうなんだが」
「それでもいいから…」
ハイジさんに抱きしめてもらえるだけで充分だと思った。
本当に、さっきまではそう思っていたはず。
でもこんな蕩けるような口づけをされたら、その先へ行きたくなる。
立ち止まっている時間がもどかしい。
「大胆なんだな」
「…嫌?」
「まさか」
探るような絡み合いではなく、私の欲を煽る舌使いに変わった。
「んんっ、ふ…」
深くて、濃厚。
唇と舌は熱を持つ。
薄明かりの中、悦に浸る表情も声も全て晒してしまっているのに、恥じらいよりもこの人を求める欲求の方が大きい。
温かい手が、私の体を撫でていく。
髪を滑らせ、首を伝い、腕からウエストへ。
そして、力強く抱きしめられ、囚われる。
キスも指使いも、時折漏れる声も、全て私だけが知っているハイジさん。
その事実のせいか、快楽の波のせいなのか、涙が滲みそうになった。
「ん、やぁ…っ」
這っていた唇は、いつの間にかうなじへ。
思わずあられもない声が漏れ出てしまう。
「あっ、や、そこ…弱い、の…っ」
肩を竦めて体をよじってはみるが、ハイジさんの手が逃げることを許してくれない。
「知ってる。さっきと同じ声だ」
「ふぅ…、んんっ」
ハイジさんが指すのは入浴前のこと。
首筋に触れた唇が引き金となり、思わず嬌声を溢してしまった。
「あの時押し倒さなかった自分を誉めてやりたいよ」