第1章 贖罪のサンタクロース/フロ監
オンボロ寮の監督生である少女は、その談話室でせっせと折り紙で作ったオーナメントを壁に飾り付けていた。
流石に大きな木は用意できなかったので、壁にペタペタと貼り付けて行く。
緑、赤。そして金色も使えば雰囲気はばっちりだ。
ただ、そのひとつひとつはまるで三歳くらいの幼児が作ったような歪な物ではあるが。
まぁこういうものは見栄えよりも心だ。気持ちが伝われば良いのである。
テーブルの上には、食材の形がバラバラなシチュー、生ハムを薔薇のつもりで巻いて飾り付けたサラダ。
品数が少ない? 見目が悪い? いやいや、これもまた見栄えよりも心なのだ。
毎日オンボロ寮に来る彼にバレぬように準備をするのは大変であったが、見目が悪いとはいえ達成感が凄かった。
少女は昨日までは殺風景だった部屋を見回して、にんまりと表情を緩める。
時計を確認すればそろそろ彼が来る頃だった。は、として窓の外を除けば、上半身を不安定にゆらゆらとさせて歩いてくる男の姿。
少女が大好きな彼で間違いなかった。
途端に少女は居ても立っても居られなくて、玄関まで早歩きで向かう。
少しばかり苦労しながら玄関扉を開くと、少年とも青年とも言える長身の男と目が合った。綺麗な明度の違うオッドアイは彼の特徴のひとつだ。
「フロイド先ぱ、あっ……!!」
よろけた少女が声を上げたのと、フロイドが「あっ!!」と声を上げて顔を強張らせたのはほぼ同時だった。
満面の笑みで走って来た少女を受け止めたのは、少女から見れば壁のように大きな男。
いつもは不安定に体躯を揺らしている彼からは想像できない程に機敏な動きを見せて、小さな体を抱きとめた。
「っぶねぇー。だから小エビちゃんさァ、走っちゃダメっつってんじゃん」
「あははー、すみませーん」
反省しているのか、していないのか。
小エビの愛称で呼ばれた少女は悪びれた様子もなく悪戯な笑顔を見せているのだから、きっと後者なのだろう。
だってだって、クリスマスですよ!早く会いたかったので!なんて愛らしい笑顔で言われてしまえば、眉根を寄せていたフロイドの表情も自然と綻んでしまう。
叶わねぇなぁ。呆れたように笑むフロイドに、少女はやっぱり悪戯な笑顔を向けていた。
「そうそう!今日は私がディナーを用意しました!フロイド先輩、シチューはお好きですか?」