第3章 仮初の夫婦生活
次の一週間は、本当に穏やかな物だった。
お互いの存在にも完全に慣れて。
朝、寝起きの悪い真琴をなんとか起こしてやるのも。
枕を抱きながら寝ぼけ目のまま玄関で手を振るのも。
帰ってくるとうまそうな料理の匂いがするのも。
風呂から出た後、
俺はビール、
あいつはアイスをソファに並んで
テレビを見ながら口にするのも。
ダブルベッドの右に真琴、
左に俺が横になって、
毎晩一回だけ額にキスをして寝るのも。
全て生活の流れとして体に身に付く程になっていた。
一応言っておくが、
体の関係はなかった。
キスだって、額だけという約束だったのだ。
今にしてみれば、
それは真琴の病気と関係があったのかもしれないけれど。
不思議な事にそれに不満を感じる事は一度も無かった。
肌を重ねたいと思った事も
無いと言ったら嘘になるけれども。
それよりも、
ぼんやりとテレビに見入っている真琴のおでこを、
なんとなしに撫でた時などに見せる、
ふにゃっとした笑顔がなんだか心を満たして。
「なぁに?」
と首を傾げる真琴に目を細めながら、
俺は確かに思っていたのだ。
ああ、こいつと本当の夫婦になるのも、
悪くないかもしれない。