第2章 提案というより依頼
「愛して欲しいなんて望まないよ。
ただのフリ。
御飯事みたいな物だと思ってもらえればいいよ。」
そう、
真琴が切り出してきたのは、一ヶ月程前の事だった。
提案というより依頼に近かったそれの内容はこうだ。
ひと月だけ私と仮初の夫婦になって欲しい。
「寝食を共にして、
ただ傍に居てくれるだけで良いんだ。
家事は私が受け持とう。
生活費もこちらで全部持つから。
あ、だからってバカみたいに高いワインとか買わないでよ?」
そう云って笑う真琴から、
その言葉の真意は読みとれない。
しかし、そんなのはいつもの事で。
こういうぶっ飛んだ事をしでかすのも、
珍しい事ではなかった。
さらに言うなら、
俺自身も仕事が立て込んでいる訳でもなく、
逆に多少の余裕さえあったから。
煙草を揉み消し、
さして興味もない雑誌のページをめくりながら、
ふんっと鼻で笑って。
「良いぜ。別に。」
その時は暇つぶし程度の感覚で、真琴の願いを受け入れたのだ。