第1章 prologue ー花を愛し、ー
真琴がしんだ。
あの女の悪癖を考えれば、
その結末は何時来てもおかしくない物だった筈なのに。
真琴の周りの人間は皆一様に動揺し、
落胆し、
悲しんだ。
出棺の準備が慌ただしく行われる最中、
ある者は遺影に向かって時折怒声を上げながら涙を流し。
ある者は、口を固く閉ざしたまま、
泣き喚く男の傍で目を伏せ。
ある者は、
何故医者である自分に相談の一つもしなかったのかと死者を責め。
ある者は、
病気なんかで死ぬなんて矢張り真琴は莫迦だねと、
作ったような明るい声を上げ。
ある者達は、
身を寄せ合い、
静かに肩を震わせて。
ある者は、
ただただ晴れ渡った青空を見上げ、
髪を風に遊ばせて。
俺は、建物の影に身をひそめたまま、
その光景をぼんやりと眺めていた。
なあ、どうだ、真琴。
お前、あいつらを見て如何思う。
この世のすべてを分かってるとでも言いたげな
詰まらなそうな顔をして、
何時だって自殺の事ばっかり考えてたくせによ。
随分お前は、愛に囲まれてたんじゃねぇか。