第5章 ending ー風に成るー
「最期まで嫌味な女だな、お前は。」
花束を捧げながら呟いた言葉があまりにも空しく響いた気がして、
俺は自嘲するように唇を歪めた。
「お前、居なくなるなら居なくなるって最初に云っておけよ。
そうしたら、俺だってもっと手前に優しくしてやれたかもしれないし、
何より心の準備が出来たかもしれないだろ。
それを、こんな………
ああ、それとも計算の内か?
これも。
俺がお前を厭でも忘れられないようにする為の…」
本当にそうだとしたら、
今までで一番最悪な嫌がらせだと思った。
「大体にして、長いんだよ、一ヶ月なんてよ。
如何すンだよ。
今もお前の隠れ家にうっかり帰ってしまいそうになる。
近所のスーパーでお前の姿を探しちまう。
朝起きて隣が冷たいのが落ちつかねぇ。
あと、あれだ。
鳥と牛蒡炒めたやつ。
あれ、無性に食いたくなんだよ。
でも、作り方も分からねぇし。
そもそも、あれはなんだ?
料理名すら分からないから、検索のしようもねぇ。
こんな事になるならせめて教えて逝けよ、莫迦。」
一気に吐きだして、墓石を撫でる。
当然だけれど、
返事はなくて。
それでも、なんとなく、
この下に眠る真琴は、聞いているような気がした。
否、本当に俺が訪ねたいのは、
料理の名前なんかじゃなくて。
本当に俺が聞きたいのは、
真琴自身の声で。