第16章 たったひとつの (五条悟)
side 伏黒
向かい合って夕食をとっているの口から
『恵くんて私のことどう思ってるの…?』
急に、だ。ほんとに急に。
ただ食事をしていただけ。
俺が好きだと言ったスープを作ってきてくれて、それがすげえ美味くて…こいつの作る飯がやっぱり好きだなって思った。
俺だけに作ってくれたらいいのにって。
が彼女…奥さんならどんなにいいかって、叶わない夢を何度も思い描く。あの人が死んでも許さないだろうからそばにいられたら幸せだって思い込もうとしていたのに。なのに触れてしまったら溢れて止まらなくなった。
「大切に思ってる。のこと。」
『私も恵くんが大切だよ』
「ずっとそばにいて欲しい」
『いるよ』
「これ以上は…今は言わない。」
『ん、ありがとう恵くん』
それは俺の伝えた気持ちに対してか、それともこれ以上を伝えなかったことに対するものか。俺には分からない。
好きだなんて伝えたら止まらなくなる。
今だっておかしくなりそうなんだ。
そばにいられるだけで、触れられるだけで幸せだと何度も言い聞かせてきた。なのに手に入れたくてたまらない。好きでしょうがない。
『そろそろ野薔薇たち来るかな』
「そうだな、俺片付けてくるからここいて」
『私も行くよ』
「作ってくれたから片付けくらいやる」
『二人でやったほうが早いから。ね?』
結局二人並んで共同キッチンにむかって後片付けをすることになった。
「あ、の好きなアイスのプレミアム?みたいなやつ売ってた。冷凍庫入ってるから食っていいよ。あと俺洗っとく。」
『え、ほんと!昨日悟の家で食べたんだけど美味しかったからまた食べたいと思ってたんだ〜!ありがとう恵くん!』
「ん、」
こんな小さなこと、いちいち気にしていたらキリがない。そもそも昨日があの人の家にいたことは知ってたし、あの人がの好きな物を用意したうえで自宅に招くことくらい容易に想像できるだろ。
俺がの一番になれたのは身体を重ねた順番だけ。ただ、津美紀のことで心配してくれたにつけ込んだだけ。