第16章 たったひとつの (五条悟)
野薔薇と2人歩く廊下。
向かう先から悠仁くんの声が聞こえてくる。一人で喋ってるのかと思うほどに小さい相槌をうつのは恵くん。正反対そうな2人なのに仲が良くて微笑ましい。
「あいつ朝からうるさいわね」
聞こえてくる声に顔を顰めてため息をついている。
『元気が一番だよ』
「まあ辛気臭いよりはいいわね」
「あー!と釘崎おっはよ!」
私たちを見つけるなりパッと笑顔を見せてくれる。悠仁くんはまるで太陽だ。彼のいる場所は明るくてあたたかいから。
『悠仁くんおはよう、恵くんも』
「おはよう…今朝は五条先生と来たのか?」
『うん、伊地知さんが乗せてくれたの。』
「そうか。」
どことなく寂しそうな目をする恵くんは昨夜、私が彼の部屋を出たときの表情とよく似ている。
『恵くん』
「ん?」
『夜何食べたい?』
「が作ってくれるのか?」
『うん。だから野薔薇たちと集まるより先に恵くんのお部屋行ってもいいかな。』
「お前が作るんならなんでもいい。が食いたいもん俺も食う。」
さっきよりも少し和らいだ表情にほっとする。恵くんのそばに居ると約束したから。一緒に育ってきた私の唯一の幼馴染。そんな恵くんがたまに見せる寂しそうな辛い表情を見ると胸が締め付けられる。
『なんか適当に作って持っていくね。』
「ん、」
言葉数は多くないけれど彼が優しくてあたたかいのをよく知っている。恵くんのそばは心地がいい。
「なあなあ〜」
『はーい』
背中から掛かった声に振り返って恵くんとの会話は自然に終わった。
「映画のおとも何にするよ!」
『やっぱポップコーン?』
「んだよな〜!」
「そんなの夜に食べたら肌荒れるわよ」
嫌そうに眉をしかめた野薔薇が信じられないという目で私たちを見る。
『今日は楽しもうよ〜』
「なんならコーラとかつけちゃって!な、伏黒ぉ!」
「別にそれぞれ好きなもん持ってくりゃいーだろ。」
『そうだね、みんな好きなもの持ってこ。』
「なににしようかしらね〜」
最近は恵くんが遅い時間の任務続きだったし、夜に4人で集まって映画なんて久しぶりだ。野薔薇の持ってくるお菓子はいつも低カロリーで美味しいものばかりだから実は密かな楽しみだったりする。