第16章 たったひとつの (五条悟)
校舎の入口にピタリと車を付けてくれた伊地知さんにお礼を言って車から降りる。
「はい、お姫様♡」
ドアを開けて私に手を伸ばす悟。周りの視線が痛い。真っ先に降りてきてくれた伊地知さんを跳ね除けてなにしてるんだか。
『1人で降りれるから平気だよ。ドアありがと。』
「手繋ぎたいだけなの伝わってない?」
『伝わってるよ。あ、野薔薇だおはよう!』
車の横を素通りする野薔薇を引止めると少し驚いた表情をした。私が悟と車から降りてくるなんておかしいもんね。
「もー!良いとこだったのに!!」
「なによ変態教師。おはよう。」
「仲良く手繋いで教室行こうかと思ってたのに!」
「はあ?に変なことしないでよね!ほんとロクな男がいやしないわ。」
『行こう野薔薇。先生またあとでね』
「先せ…はあ…またあとでね」
呼び方が不服なのか大きなため息をつかれた。でも野薔薇や他の補助監督さんがたくさん通るのに名前呼びはちょっとね。
「あんたなんでアイツと一緒に来たのよ?」
『あー…昨日稽古付けてもらったらスパルタすぎてそのまま動けなくなっちゃって…そしたら先生の家に運んでくれたの』
「別にの部屋に送ってくれたら良くないかしら?そっちの方が近いんだし。」
最もなことを言われて言葉につまる。
『美味しいもの食べさせてあげるって言われて着いて行っちゃったんだよ。共有スペースのキッチン使っても良かったんだけど夜遅かったから。』
最もらしい言葉で返せただろうか…?
「あ〜まあたしかにお金だけはあるわよねあの男。今度私達もザギンのシースー連れてってもらおうかしら。」
『いいね、みんなで行きたいな』
「今度たかりましょ!」
特に疑われずに終わった会話に安堵する。
私と悟は生徒と先生。
そこの線引きをちゃんとしなきゃって思うのに。頭では分かっているのにあの瞳に見つめられると何も考えられなくなる。流されたくなる。愛されたい…と思ってしまう。