第16章 たったひとつの (五条悟)
すっかりご機嫌な悟に小さく安堵のため息を吐く伊地知さん。いつもどれだけの心労をかけていることか…。
「あ〜もう着いちゃうね。」
『そうだねえ』
窓の外の景色を眺めて大きなため息をひとつ。せっかく機嫌治ったんだからこのまま…このまま無事に着いて…。
「もっと遠くに住めばこの時間もっと一緒にいられるね」
『伊地知さんの運転する時間が長くなるでしょ。それに朝も早く起きなきゃいけなくなるんだよ。』
これ以上ご迷惑かけられないよ…。
「は朝弱いよねほんと。そんなとこも可愛いけど♡」
『…悟は寝起き良すぎだよ。』
いつ睡眠をとっているのか不思議なスケジュールなのに目覚めがいい。私は朝がいちばん苦手。できるならずっと寝てたいくらい。
『あ、硝子さんだ』
「ほんとだね窓開けたら」
『硝子さーん!!』
ウィーンと降ろした窓から前を歩く硝子さんに手を振る。
「?」
『悟!私ここで降りる!』
「え!やだやだ!あ、伊地知なんで車停めるんだよ!」
「す、すみませんっ」
『伊地知さんありがとう!じゃあ硝子さんも一緒にどうですか?』
「乗ってくってもうそこだから私はいいよ。それに煙草吸いたいし。五条に恨まれたらたまったもんじゃないからね。」
『そっかぁ…じゃあまたあとでっ』
「はいよ。伊地知、もう車出していいよ。」
「はい、では…っ」
確かに校舎はすぐそこで、硝子さんは敷地内に用意されている部屋で寝泊まりしていることが多いから今日もきっとそう。
「ってほんと硝子好きだよねえ」
『うん、だいすき。』
「ほんと妬けちゃうよ」
悟達が任務で忙しいとき、いつもそばにいてくれたのは硝子さんだった。メイクを教えてくれたのも、女の子として最低限のおしゃれを教えてくれたのも硝子さん。私にとってお姉ちゃんみたいな存在。