第16章 たったひとつの (五条悟)
「ねえはやく。学校着いちゃうよ?」
『しないってば!』
この目に騙されちゃだめ。
悟は分かっててやってるんだから。
「ふーん。僕なんかより伊地知が好きなんだねぇ。だから僕の手振り払って伊地知んとこ走っていったんだぁ。へぇふーーん。」
「ひ、ひぃ…っ!」
伊地知さんの小さな悲鳴が車内に響く。
『別に振り払ってはないよ…あと伊地知さん可哀想だから巻き込まないであげて。』
今まで悟に何をされてきたのか、いつも怯えていて本当に可哀想だよ…。
「が今ここで僕にちゅーしてくれないならあとで伊地知詰めよっかなぁ」
『なんでよ伊地知さん何も悪くないのに…っ』
「でも伊地知見つけて走っていったのは本当でしょ。」
「ご、五条さ、ん…っ」
「なに伊地知。は僕のだよ。」
「ぞ、存じておりますが…っさんは承諾しているのでしょうか…?」
「はあ???は僕のって出会った時から決まってんのー!!!」
運転席に身を乗り出して伊地知さんに噛み付く悟。大の大人が運転中の人に…危ないよもう。
『悟、だめだよ伊地知さん運転してくれてるんだから』
「伊地知ばっかり…!僕の気持ち知ってるくせに!」
『わがまま言わないの大人でしょ。伊地知さんごめんなさい。』
「いえいえ…とんでもないです。」
悟より伊地知さんの方がよっぽど大人だよ…。
「ちゅー。」
凝りもせず擦り寄ってキスをねだる悟。
『伊地知さんにごめんねする?』
「……。」
黙り込んだ悟の顔を覗き込んでほっぺを軽くつねる。
『ごめんなさいできますか?』
「デキマス。」
『じゃあして。はいどーぞ。』
「…い、伊地知ごめんね。」
「と、とんでもございません!!!」
ビッと背筋を伸ばして声を張る伊地知さんを見て ご褒美、ともう一度私に詰め寄る大きな影。