第16章 たったひとつの (五条悟)
side you
私が準備を整えて悟の家を出ようとする頃には悟も準備を終えていて私待ち状態。何がなんでも一緒に行くつもりなんだろうな。
それをわかった上で一応聞く。
『悟先に出る?』
「だぁかぁらぁ!一緒がいいってばあ!」
『でもそれじゃ皆びっくりしちゃうってば…』
悟が女性の補助監督さんたちから人気があるのは学生のときから変わらない。言い寄られたり食事に誘われたり、自ら送り迎えを買ってでる人がいたり、そんなの日常茶飯事だった。常に私がそばにいることをよく思ってない人だっている。だから朝から一緒に登校なんて避けたいのに。
「やだ!恵たちと映画見てきていいから朝は僕との時間!!」
『悟の許可なんていらないですぅ』
悟の彼女じゃない。もう許嫁でもない。
それなのにこんなに執着されてる意味が分からない。昨日までは親心からくる過保護なんだと思ってたけどそんなんじゃなかったし…私が悟に捕まるのはきっと時間の問題だろうなってなんとなく思う。
「もうすぐ伊地知来るから一緒に車で行こうよ。お願い。」
『…嫌だって言ったら?』
「僕の方が嫌だって駄々こねる。」
『…もう。分かったよ。』
遅かれ早かれ私が折れるしかないのは分かってたけど…。
「やっったあ!」
『伊地知さんに迷惑じゃないかなあ』
「僕1人乗っけるのもと二人で乗っかるのも変わらないでしょ?ていうかその方が僕の機嫌が良くて伊地知は大歓迎かもね〜♪』
いい大人が自分の機嫌で他人を振り回しちゃダメでしょうが…。
「あ、伊地知きたって!」
振動するスマートフォンに表示された名前を見て伊地知さんが到着したからと私の手をとって玄関へ向かう悟。
『ちょっと、電話出ないの?』
「うん、だって来たって知らせてくれてるだけだし」
『そっか…?』
悟と伊地知さんの関係性って元は普通の先輩後輩だったのにここまで振り回されて本当に……今度なにか差し入れしよう。