第16章 たったひとつの (五条悟)
行為後特有の気だるさを引きずりながら迎えた朝。隣で眠る悟は私の腰に腕をまきつけたまま気持ちよさそうにまだ夢の中。半身を起こして彼の綺麗な髪を撫でるとゆっくりとまぶたが開く。
『悟、起きないと遅刻するよ』
「ん、ん…もうそんな時間?」
開かれた瞳は何度観たって美しくて宝石みたい。
「ふは、ってほんと僕の目好きだよね。見すぎ。」
『うん、綺麗だもん』
「すき?」
『うん、好きだよ』
「僕も好き。のことが大好き。」
心底愛おしそうに大きな手で私の頬を撫でながら再びベッドへと引きずり込まれる。
『もう…準備しないとだってば…』
「からキスしてくれたら起きる。昨日も何だかんだでしてくれなかったでしょ?」
『学校でするわけないじゃない。』
「ここは僕の家で僕の寝室だよ。誰も入ってこない。僕たち二人しかいない。…おねがい、僕にキスして。」
首に回った悟の腕に引き寄せられて触れるまであと少しのところで止まった。目を瞑って私からの口付を待つ彼がなんだか可愛く思えて触れるだけのキスをする。
「…もう1回。」
『うん…』
もう1回、と強請る悟に応えて何度も口付けをする。彼がいなければ私は今頃独りぼっちだったかもしれない。普段は突っぱねるような態度をとってしまうけど私にとって世界で1番大切で失いたくない存在。
「僕とするキスが一番好き。」
『他に誰かいるみたいな言い方するね』
「いないよだけ。言葉のあやだよ。もしかして妬いた?僕はだけの王子様だって昔から言い聞かせてるでしょ?」
『ふふ、そうだね。…悟は私だけの王子様でいて。』
「素直なの珍しくて可愛すぎるからこのまま抱き潰したい。」
『だめ。私と悟が一緒にいるの悠仁くん知ってるし怪しまれちゃうよ。』
「そんなの言わせとけばいいのに。僕のだって気づけばいい。」
『もぉ…。今日の夜もここに帰ってきてあげるから起きて?』
「え、今日も来てくれるの?絶対??」
ガバッと起き上がった悟が私の肩を掴んで揺する。
『絶対来るから準備して。しないなら来ない。』
「する!学校いく!わーい!!」
私の一番安心できる場所はいつになったってやっぱりこの人の隣だと傍にいるほどに実感させられる。