第16章 たったひとつの (五条悟)
コンコン…
控えめに叩かれた自室のドア。
野薔薇…?
「いる?」
『え、悠仁くん?』
「夜にゴメンな、ちょっと話したくて」
『今開ける!』
ドアの前に立っていた悠仁くんの手には可愛らしい小さなショッパーと私がいつも使っているヘアパック。
『それ、どうしたの?』
「あ、これ…に渡したくて。」
『私に?えと…立ち話もなんだし一旦中入ろっか。』
「お邪魔します…!」
ベッドに腰掛ける私の足元でベッドを背もたれにして座る悠仁くん。
「さっきも言ったけどこれ、に渡したくて。」
『私がいつも使ってるヘアパック…よく分かったね』
「前に風呂貸してもらった時置いてあったの見たんよ。同じやつずっと使ってるって言ってたからこれかなって。」
『そろそろ無くなりそうだったから助かっちゃうなぁ。ありがと悠仁くん。』
そういえば何度か私の部屋のお風呂をかしたことがあったっけ。野薔薇も恵くんもだけどお互いの部屋に入り浸ったりお風呂の貸し借りなんて日常だもんね。
「あとこれ」
可愛らしいショッパーのロゴになんだか見覚えがある。最近どこかで見たような。
『これ、って…』
「朝釘崎の持ってた練り香水?ってやつ気に入ってたから。釘崎に聞いて教えてもらった。」
『え、わざわざ買ってきてくれたの?』
「都内だしわざわざってほどでもねえけど。今朝渡したお菓子と飲み物だけって詫びにしちゃふざけてるなーと思って…」
そう言って眉を下げる悠仁くんがなんだか可愛く思えてピンク色の髪の毛をふわりと撫でた。
「???」
『私は気にしてないから大丈夫だよ。でもこれは嬉しいから貰う。野薔薇とお揃いなのも嬉しい。明日から使うね。』
「ん、いっぱい使ってよ」
ふにゃりと笑った顔は普通の高校生みたいでこの笑顔に何度も救われてきた。