第16章 たったひとつの (五条悟)
side you
「やあっと戻ってきた〜」
『野薔薇たちは何してたのー?』
「トランプよ〜」
やっと解放された私が教室に戻る頃、2人とも勉強なんてしていた形跡すらない。机をくっつけて神経衰弱中。
「あんの変態教師になんかしてないでしょうね?」
「ちょっと僕ここにいるんですけど!ひどくない?ていうかトランプしてろなんて言ってないんだけど!」
『まあいいじゃん。自習っていったって課題片付けるくらいしかやることないんだし。』
「ま、それもそっか!が言うならそうだよね〜」
「せんせーに甘すぎじゃないかしら?」
「可愛い生徒を甘やかして何が悪いの??」
呆れた野薔薇の顔がほんとに冷たくて笑っちゃう。ため息をつきながら顔にかかった髪の毛を手でうしろにとかすように流した野薔薇からかすかに甘い匂いがする。
『ねえ、野薔薇香水つけてる?』
「つけてるわよ〜!今日はね、新しいやつにしたの!」
嬉しそうにバッグから取り出した可愛らしい練り香水を見せてくれる。
「今朝付けたばっかりだからちょっと甘いんだけど時間が経つとそうでも無いのよ?」
『私この香り好きかも』
「ほんと?じゃあにも付けてあげるから手首出して」
『いいの?やったあ』
野薔薇に手首を差し出すとクリーム状の香水を付けてくれて、首にもね と教えてくれた。
『わ…いい匂い』
「ふふ、でしょ?」
いつも嬉しそうにメイクやファッションの話をする野薔薇は本当に可愛い。この世に "呪い" なんてものが無ければ美容部員さんとか、アパレルとかで働いてたのかな。
それなら私は何になってた?
何に憧れた?
もしもの世界なんて考えたって意味がないことは分かっているのに考えてしまうのは私が呪術師だから。