第16章 たったひとつの (五条悟)
僕が立ち上がると後ずさってドアに手をかける。そんなに警戒されると捕まえたくなるんだけど。
「なんで逃げようとするの」
『逃がしてくれるの?』
「ううん、僕はのこと離してあげられないよ。」
僕よりはるかに小さな身体を引き寄せて腕の中におさめる。このぬくもりを知ってるのは僕だけで良かったのに。
『そろそろ戻らないと野薔薇たちが怪しむよ。』
「まだもう少し。最近僕の家来てくんないから寂しかったんだよ?」
『だから私悟の彼女じゃ…ッん!』
俯きながら言う彼女の顎を掬い上げて唇を押し付ける。久しぶりに触れるは拒否することもなく静かに受け入れてくれた。
「とキスするのは1週間ぶりくらい?相変わらず柔らかくて小さくて食べちゃいたい。」
腕の中で抵抗もせず諦めたように身体を預けるは僕だけのもの、だったのに。
『悟…っもう戻ろ?』
「じゃあからちゅーして」
『しないよばか…っ』
「でも悠仁とはしたんでしょ?」
『私からはしてないよ』
「ほんと?」
『ほんと、ちゃんと私の目見て』
彼女の小さな手が僕のアイマスクを首まで降ろした。真っ直ぐに僕を見つめる綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
「…最初から信じてるよ。嘘でも別に構わない。僕は君の言葉なら嘘だって知ってても信じる。信じたまま死んであげる。」
『死ぬとか簡単に言わないで。悟は最強なんじゃなかったの。』
「うん、僕は最強だよ。お前を置いて独りぼっちになんかしない。」
『約束したんだから守ってよね…』
「仰せのままに、お姫様。」
僕はを独りになんかしないよ。
もう寂しい思いはしなくていい。
そのために僕がいる。
だからも…
僕を独りにしないで。